Genetic evidenceに基づく創薬とは?

こんにちは!Wetとdryの懸け橋になりたいDryWettyです。今回は創薬アドベントカレンダー2019 Wet Side 18日目の記事として、数年前から話題のgenetic evidenceに基づく創薬について、話題になったきっかけから現在の状況について私見になりますが紹介します。

Genetic evidenceとは?注目されたきっかけは?

まずgenetic evidenceとは何なのかをお話しします。Genetic evidenceとは、ある疾患に対する薬を開発していく際に、その薬のターゲットとなる遺伝子と狙っている疾患のphenotypeに関わるゲノム上の変異に何らかの関連性(遺伝子のcoding regionの変異やnon-coding regionのeQTL effectがあるgeneをcausal geneとも呼びます)があると開発成功率が高くなるという仮説です。genetic evidenceが注目されたきっかけは2014年のNature Reviews Drug Discoveryに掲載されたLessons learned from the fate of AstraZeneca’s drug pipeline: A five-dimensional frameworkという論文です。この文献ではアストラゼネカが2005~2010年に進めてきた低分子のプロジェクトでどんなものが臨床試験まで進んでドロップアウトしたかを分析しています。創薬AC20194日目にt_kasiさんが紹介している5″R” frameworkの文献の一つです。この中の解析の一つでgenetic linkage (evidence)があった薬はphase IIの成功率がgenetic linkageなしに比べて約2倍高かったと示されていました。一方で、この文献ではgenetic linkageをどのように調べたかは言及されていませんでした。

その後すぐ2015年のNature Geneticsに掲載されたThe support of human genetic evidence for approved drug indicationsという論文で、GlaxoSmithKlineの研究者がgenetic evidenceのある薬がどれだけの成功率か解析した結果を報告しました。手法としてはメンデル型遺伝病のデータベースであるOMIMおよびゲノムワイド関連研究(GWAS)のデータベースであるGWASdbに載っている変異と遺伝子の関係と、医薬品開発パイプラインデータベースであるInforma Pharmaprogectsに載っている薬のターゲット疾患と遺伝子の関係を抽出してオーバーラップを解析しています。変異と遺伝子の関係を抽出する際には単純に変異と重なる場所だけではなく、LD関係やeQTL、epigenomeの情報も使っています。結果として、OMIMにある遺伝子をターゲットにしている薬は成功率がオッズ比7.2倍で、GWASdbにある遺伝子をターゲットにしている薬も2.0倍(top variantでは2.7倍)であり、アストラゼネカの結果を支持するものでした。

個人的にはこれらの研究から薬を標的評価にgenetic evidenceを利用する流れができたと考えています。ただgenetic evidenceの評価方法はpublic databaseのみに頼るのではなく、社内のデータをいかに利用するのかが企業研究者・解析者の腕の見せ所になったと思います。

Genetic evidenceに基づく創薬の現状は?

ここからはgenetic evidenceの重要性が提唱されて約5年たった2019年現在どんな流れが起きているか2つ紹介します。

まずひとつめは2015年のGSKの論文と同じ解析を現在したらどうなるのか、という研究が一週間前にPLoS Geneticsに報告されました。 こちらはAbbvieの研究者が書いたものです。GSKの文献では2013年までの変異データ、開発プロジェクトデータを使っていたので、この論文はその後の2013年から2018年のデータを追加して再解析しています。こちらの結果でも、OMIMとGWASにある変異のcausal geneをターゲットにしているプロジェクトは、phase1からapprovalまでの成功率を見るとやはり2倍近く高くなっていました。しかし、GWASの変異に関してはGSKの解析に比べて成功率への関連性が低く見積もられています。この結果について筆者はOMIMに比べてGWASはcausal geneと繋げる良い手法がまだ途上で、ここが改善されれば予測精度をより上げられるかもしれないと言及しています。

最後にgenetic evidenceをいかに生物学的な理解や医療への応用に活かすかを考えるInternational Common Disease Alliance (ICDA) というフォーラムについて紹介します。ICDAは from Maps to Mechanisms to Medicine を目的として世界の有識者が集まって2019年9月に発足しました。日本からはOrganizing Comitteeに大阪大学遺伝統計学教授の岡田随象先生が参加されています。発足した際にまとめられているwhite paper v0.1はまだまとめられている途中ではありますがgenetic evidenceの概観と、生物学と医療への応用に今後求められていることを知るのに適した資料となっています。今後の創薬およびヘルスケアにはgenetic evidenceをどのように担保して活かしていくかが肝になると考えられますので是非一読をお勧めします。

文章だらけになってしまいましたが、genetic evidenceに関する私見を紹介させていただきました。ほかに情報がありましたら是非twitter等で教えていただけるとありがたいです。それではみなさん良いお年と研究を。

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